エンジニアにとっての社会貢献を考える – ボランティア篇

Lego: The Engineer

paiza開発者ブログで「ITエンジニアが「社会貢献」できる働き方はどうすれば見つかるのか」という記事を書きましたが、ちょっと書き足らなかったので、こちらで番外編をお届けします。

社会貢献というと、災害時に被災地援助に関わるといった、無償の奉仕活動を思い浮かべる人もいると思います。じつは本来、英語のVolunteerという言葉は、無償奉仕ではなく、「自発的に申し出る」「進んで事に当たる」という意味があります(参考 – Wikipedia)。たとえば、義勇軍や志願兵は、Volunteerと呼ばれます。海外で飛行機に乗ったとき、航空会社がキャンセルを見越して定員より大目に予約を受け付けて、座席が足りなくなることがありますが、こういう時に「座席を譲っていただけるボランティアを募集します」なんてアナウンスが入ることもあります。
こうなると、よく耳にする無料奉仕のボランティアとは、かなり趣が違ってきますよね。

あちらでも書きましたが、転職や就活の際に「社会貢献度の高い仕事をしたい」と語るエンジニアが増えているんだそうです。もちろん、そのためには、自分の貢献できる能力と会社や組織についての理解を深める必要があるのですが、一方でエンジニアが社会貢献する方法は業務だけではありません。

専門スキルを活かした社会貢献とは

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そこで注目したいのが、誰でもできる作業による貢献ではなく、専門的なスキルを活かして社会貢献しようとする活動です。たとえば、ビジネスの手法で社会的な課題を解決しようとする「社会起業家」(ソーシャル・アントレプレナー )が、若手の起業家を中心に活発になっています。

注目の社会起業家8組が語る「成功」の定義 « WIRED.jp

弁護士や経営コンサルタントといった専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献する「プロボノ」(pro-bono )といった活動もあります。

こういう人たちが社会貢献活動をする理由は様々ですが、経験や実績を積めるため、自分自身のためにもなると言われています。それが結果的に、自分の仕事の幅や人脈・機会を広げることにもつながります。

同じように、エンジニアにとっても、社会貢献活動を通じて、業務では経験できない技術を試したり、自分の技術的な位置付けを再確認したり、人的なネットワークを広げたりすることができるのではないでしょうか。日ごろの地道な活動が、転職活動時の実績や評価につながることもあります。転職や就職活動で「社会貢献に興味があります」と志望動機を語った時に、実際に興味の対象や実績をアピールすることも可能になります。

つまり、一種のセルフブランディングになるのです。

では、実際に、エンジニアができる社会貢献活動を具体的に紹介していきましょう。

社会に役立つITサービスを作る・運営する

Coastal Researcher (Research)

まずは、社会に役立つITサービスを開発・運営している活動をいくつか紹介しましょう。

Code for Japan

市民参加型のコミュニティ運営を通じて、アイディアを考え、テクノロジーを活用して、地域の課題を解決するための公共サービスの開発や運営を支援していく非営利団体です。

Hack For Japan

“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい”というIT開発者の想いを形にするために生まれた、開発者を中心としたコミュニティです。

Open Knowledge Foundation

公共データの積極的な公開のための法律や政策に関する議論と提言、公開されたデータの活用を進めるためのツールの開発やプロモーション活動などを行う組織です。

OpenStreetMap Japan

道路地図などの地理情報データを誰でも利用できるよう、フリーの地理情報データを作成することを目的としたプロジェクトです。誰でも自由に参加して、誰でも自由に編集でき、誰でも自由に利用する事ができます。

これらの活動では、年に1・2度、成果を発表するイベントなども開催しています。参加してくれるエンジニアを募集しているところもあります。興味のある活動があれば、足を運んでみたり、FacebookページやTwitterアカウントをフォローしてみたりしては如何でしょうか。

ITコミュニティに貢献する

Linux in the Park

ITコミュニティでの活動も、それ自体が社会貢献になります。

現在、ITシステムやITビジネスは、数多くのオープンソースソフトウェアに支えられています。主要なOSS開発プロジェクトが、NPOなどを中心に行われている場合も増えてきました。エンジニアにとって、これらの開発に関わることは、重要な社会貢献になります。システム開発に携わるエンジニアなら、その恩恵をこうむっているのではないでしょうか。

ここでは、NPO化されているOSS開発プロジェクトをいくつか紹介しますが、実際は、これらのNPOだけで開発を行っているのではなく、これらをコアにしたコミュニティ(共同体)で開発が行われています。

Linux財団

Linuxを支援するための組織です。Linus Torvalds 自身を雇用することはもとより、カーネル開発コミュニティをサポートし、大規模なコラボレーションを育むことにより、あらゆる好奇心をフリーでオープンな意見交換へと導きます。

Apacheソフトウェア財団

当初はWebサーバソフトウェアであるApache HTTP Server の開発のために発足したオープンソース開発プロジェクト支援団体です。現在は、JakartaやHadoop・Sparkなど、多くのミドルウェア・クラウドプラットフォームの開発をサポートしています。

Mozilla財団

WebブラウザのFirefoxの開発など、「インターネットを健全でより良いものにしたい」と世界中から集まったボランティアと共にオープンなプロセスで行っています。

The Document Foundation

Microsoft Officeと高い互換性を持ち、無料で自由に利用できる統合オフィスソフト「LibreOffice」の開発母体です。

Github

そこで、もうひとつ注目しておきたいのが、ソースコード管理サービスGithubです。アカウントを持っていると、OSSなどソースコードを公開するPublicレポジトリを無料で利用できます。そこから、他の開発プロジェクトに、修正コードを提供するプルリクエストも送るなど、ITコミュニティに貢献するときに今や欠かせない存在になりまいた。

ITコミュニティに貢献するものすごく簡単な方法は、ドキュメントのtypo(書き間違い)を修正することです。あなたが気に入っているオープンソースプロジェクトで書き間違いに気づいたら、そのWebサイトに一度アクセスしてみると良いでしょう。

今度、「OSSの開発に参加する」を実際に体験するワークショップも開催予定です。

学習した内容をオープンにしよう

Occupy Wall Street

自分が学習した技術的な内容を、ネットで公開するだけでも、ITコミュニティを豊かにしたことになります。何か新しい技術について検索して、誰かのブログやQiitaの記事などが役に立った経験が、あなたにもあるでしょう。今度は、あなた自身が情報発信する側にまわるのです。
ここ数年、自分のブログに掲載するだけでなく、エンジニアが手軽に情報発信できる手段や機会が増えてきました。

ITアドベントカレンダー

12月1日からクリスマスまで、プログラミングに関する記事を、一人または複数人で、日替わりで投稿していく企画です。日頃はブログなどを書かないエンジニアでも、1年に1回くらいなら、参加できるかも知れませんよね。昨年末版がちょうど終わったばかりですが、あなたも次回は参加してみては如何でしょうか。

読むもよし書くもよし!技術系アドベントカレンダー2015まとめ【保存版】 – paiza開発日誌

Qiita

プログラマのための技術情報共有サービスです。 プログラミングに関するTips、ノウハウ、メモを簡単に記録&公開することができます。技術情報をネットで検索した時にも、けっこうヒットしますよね。

ライトニングトーク

技術系イベントなどで行われる、持ち時間5分ほどで行う短いプレゼンです。発表時間が短いので、初心者や一発ネタなどを比較的気軽に発表することができます。何より、ブログと違って〆切があるので、エントリさえすれば確実に登壇がまわってきます。

【動画あり】5分でわかる「LTの作り方とポイント」あるいはウケるプレゼンのコツ – 941::blog

勉強会への登壇とスライド公開

この10年ほどで大きく変わったのは、IT勉強会が普及したことでしょう。まだ書籍などにまとまっていない最新情報やマイナー情報を発信・収集するのにピッタリのイベントです。自分が登壇したり、そのスライドを公開したりしても、注目を集めるきっかけになるでしょう。

これは便利!IT系勉強会を検索できるサービス10選 – paiza開発日誌

Github / Gist / Github Pages / Github Wiki

こうした情報をオープンにする場合、ソースコードはGithubで公開することが目立ってきました。また、Githubには、公開しているプロジェクトの情報や開発ドキュメントなどを公開する機能が充実しています。あなたも、ネットで検索した情報が、GithubやGistで公開されているのを見たことがあるでしょう。

Gist(https://gist.github.com/)は、簡単な短いコードやメモをバージョン管理しながら公開する機能です。ちょっとしたコードの断片(CodeSnippet)を公開するのに便利です。Github Pagesは、Githubのリポジトリで静的なHTMLを公開する機能です。少しまとまった量のhtmlファイルを公開するときに利用すると良いでしょう。Github Wikiは、Githubのプロジェクトに設置できるWikiページです。Markdown記法でWikiページを作成することができます。

もちろん、自分が開発したコードをOSSとして公開することも、誰かの役に立つかも知れません。

human achievement, one stone at a time

自分の調べた情報をネットで公開すると、それなりにアクセスされたり、他の記事に紹介されたりすることがあります。だから、誰かに役に立つ情報を提供すれば、ITコミュニティを豊かにできると同時に、ほんの少しだけ自分の評判を高めることができるのです。

何より、今では新しい技術や人材を売り込むとき、ITコミュニティは大きな影響力を持っています。つまり、技術や人材にとって、コミュニティがマーケティングの対象なのです。転職や就職活動で自分自身を売り込もうとするとき、このマーケットを活用しない手はありません。