感想メモ:OSSライセンスの教科書

OSSライセンスの教科書

OSSライセンスの教科書

技術評論社から、こんな本が出るそうです。すでに、AmzonではKindle版が入手可能です。概要や目次、著者略歴などは、出版社のページで確認できます。

ありがたいことに、技術評論社さんから見本書を頂きましたので、頑張って、一通り目を通してみました。

今回は、その赤裸々な感想をざっくり書いてみようと思います。

書いた人

著者の上田 理さんは、CELinuxとかに関わっている人ですね。2017年北東アジアOSS貢献者賞受賞

なので、門外漢が知らないことをがんばって書いたという訳ではないみたいです。

特徴

組み込みLinuxの事例を中心に、GPL/LGPLや、Apacheライセンスの特許条項などについて解説が充実しています。また、OSSに対応するための社内体制の整備についても、かなりページを割いています。それから、「OSSイノベーション戦略」として、コミュニティとどのように連携すべきかと、そのメリットを説いています。出版社のページで、サンプルPDFファイルを公開していて、その最初にある「講義 ソフトウェアと知的財産権」は監修の岩井さんが書いたものですね。

モニョるところ

本書では、OSIが策定した「オープンソースの定義」とOSI認定ライセンスを紹介しつつ、実務面では限界があるとして、独自のオープンソースの定義を導入しています。その結果、JSONライセンスを例にとり、OSSとして認められるべき「実務面から考えれば、このようなライセンスで利用許諾されているソフトウェアも当然 OSSとして捉えるべき」(p.12)としています。

※ただし、JSONライセンスは公式のライセンスには見えないので、筆者の単なる調査不足だと思います。

追記:また、寛容型ライセンスとしてTOPPERSライセンスを取り上げています。TOPPERS プロジェクトで採用していて、いくつか議論のある特殊なライセンスですが、「寛容型ライセンスを理解するのに非常に役立」つと、具体例として最初に取り上げています。

それから、「オープンソースの自由」についての説明が、”自分たちが自由に使える”という主観的なものに置き換わっています。自由に使えるとはどういうことなのか、という本来の説明がほとんどありません。「オープンソースの定義に準拠する」という話が「OSI認定ライセンス」の話にすり替わっているところもあります(p.12)。

あとは、「OSSイノベーション戦略」 のところは主語がぼんやりしている。大手企業のOSS戦略あたりの話になっていて、エンジニアのスキルパスみたいな話は少しだけ。

この本の限界

「OSSライセンスの教科書」と名乗りつつ、全体的に、著者の個人的な想いと得意分野に少しばかり偏っているように見えました。これが、オープンソースコミュニティの主流と捉えられるのは、ちょっと違うだろうな(私の方が、偏っているのかもしれないけれど)。

Webサービス系企業の人たちとか、エンジニアのセルフブランディングに興味がある人たちには、あまり参考にならなそう。例えば、WordPressのテーマを作っていて、OSSライセンスについて理解を深めたいという人には、ピンとこないでしょう。

この本が役に立ちそうな人たち

組み込み系ソフトウェア開発や業務系システムを受託開発するような大手SIerの人たちには、自分たちの状況に当てはまるところが少なくないかも。