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MITライセンスが適用されたコードを利用するには

MITライセンスは、代表的なオープンソースライセンスの一つです。

ネット上で見つけたサンプルコードの利用条件が、このMITライセンスになっていることも、良くあります。そんなとき、利用者はどんな行為が可能なのか、質問を受けることも少なくありません。

そこで、このMITライセンスで「あなたができること」「条件」を簡単に説明します。ただし、この記事自体はMITライセンスそのものではありません。短い文書ですので、ぜひ一度読んでみてください。

MITライセンスが適用されているコードは、その条件に従うことで、あなたは次の行為が可能です。

MITライセンスでできる事

  • このソフトウェアを誰でも無償で無制限に扱って良い。
  • これには、ソフトウェアの複製を使用、複写、変更、結合、掲載、頒布、サブライセンス、および/または販売する権利、およびソフトウェアを提供する相手に同じことを許可する権利も無制限に含まれます。

色んなことができますよね。サンプルコードを元にして新しいコードを作る場合は、複製して変更して結合して、なんて事になると思います。そして、それを頒布したり、サブライセンスしたり、販売したりと、色んなことができる訳です。

MITライセンスの条件

  • 「ライセンス文書に記載の著作権表示」と「本許諾表示」を、ソフトウェアのすべての複製または重要な部分に記載する。
  • コードは、現状のまま提供される。保証はない。作者または著作権者は、ソフトウェアに関してなんら責任を負わない。

著作権表示とは「Copyright 2xxx foo.bar」のところです。本許諾表示とは、ソフトウェアに同梱されているMITライセンスの文書です。独立したテキストファイルの場合もありますし、ソースコードの冒頭にコメントとして記述している場合もあります。

参考になるページ

さらに詳しく知りたい場合は

SIOS Tech.Lab:わかっておきたい、オープンソースライセンス

知る、読む、使う! オープンソースライセンス
可知豊
達人出版会
発行日: 2011-12-20
対応フォーマット: EPUB, PDF

感想メモ:OSSライセンスの教科書

OSSライセンスの教科書

OSSライセンスの教科書

技術評論社から、こんな本が出るそうです。すでに、AmzonではKindle版が入手可能です。概要や目次、著者略歴などは、出版社のページで確認できます。

ありがたいことに、技術評論社さんから見本書を頂きましたので、頑張って、一通り目を通してみました。

今回は、その赤裸々な感想をざっくり書いてみようと思います。

書いた人

著者の上田 理さんは、CELinuxとかに関わっている人ですね。2017年北東アジアOSS貢献者賞受賞

なので、門外漢が知らないことをがんばって書いたという訳ではないみたいです。

特徴

組み込みLinuxの事例を中心に、GPL/LGPLや、Apacheライセンスの特許条項などについて解説が充実しています。また、OSSに対応するための社内体制の整備についても、かなりページを割いています。それから、「OSSイノベーション戦略」として、コミュニティとどのように連携すべきかと、そのメリットを説いています。出版社のページで、サンプルPDFファイルを公開していて、その最初にある「講義 ソフトウェアと知的財産権」は監修の岩井さんが書いたものですね。

モニョるところ

本書では、OSIが策定した「オープンソースの定義」とOSI認定ライセンスを紹介しつつ、実務面では限界があるとして、独自のオープンソースの定義を導入しています。その結果、JSONライセンスを例にとり、OSSとして認められるべき「実務面から考えれば、このようなライセンスで利用許諾されているソフトウェアも当然 OSSとして捉えるべき」(p.12)としています。

※ただし、JSONライセンスは公式のライセンスには見えないので、筆者の単なる調査不足だと思います。

追記:また、寛容型ライセンスとしてTOPPERSライセンスを取り上げています。TOPPERS プロジェクトで採用していて、いくつか議論のある特殊なライセンスですが、「寛容型ライセンスを理解するのに非常に役立」つと、具体例として最初に取り上げています。

それから、「オープンソースの自由」についての説明が、”自分たちが自由に使える”という主観的なものに置き換わっています。自由に使えるとはどういうことなのか、という本来の説明がほとんどありません。「オープンソースの定義に準拠する」という話が「OSI認定ライセンス」の話にすり替わっているところもあります(p.12)。

あとは、「OSSイノベーション戦略」 のところは主語がぼんやりしている。大手企業のOSS戦略あたりの話になっていて、エンジニアのスキルパスみたいな話は少しだけ。

この本の限界

「OSSライセンスの教科書」と名乗りつつ、全体的に、著者の個人的な想いと得意分野に少しばかり偏っているように見えました。これが、オープンソースコミュニティの主流と捉えられるのは、ちょっと違うだろうな(私の方が、偏っているのかもしれないけれど)。

Webサービス系企業の人たちとか、エンジニアのセルフブランディングに興味がある人たちには、あまり参考にならなそう。例えば、WordPressのテーマを作っていて、OSSライセンスについて理解を深めたいという人には、ピンとこないでしょう。

この本が役に立ちそうな人たち

組み込み系ソフトウェア開発や業務系システムを受託開発するような大手SIerの人たちには、自分たちの状況に当てはまるところが少なくないかも。


OSC2016 Tokyo Fallは、11月5-6日(土・日) 開催です

私も、いつものネタで出る予定。


コピーレフトの対象について、説明を修正しました

長らく、オープンソースのライセンス解説というのをやっておりまして、オープンソースライセンスの基礎と実務というスライドを公開していますが、37ページ目の「コピーレフトの対象とみなす範囲」を修正しました。

修正したのは、LGPLで対象と見なす範囲のところです。
従来は「静的リンクは対象とみなす」「動的リンクは対象とみなさない」と説明してきました。しかし、これは誤解を招くと指摘を頂きました。そこで今回の説明では「静的リンクも対象とみなさない」としています。

slide_37s_copyleft

LGPLが適用されたライブラリを使う場合、ライブラリ自身を改変する場合と、ライブラリを利用するソフトウェアを作成する場合がありえます。そして、後者のように、ライブラリを利用するソフトウェアは、「ライブラリと結合・リンクして配布する場合、リバースエンジニアリングを禁止せず、結合・リンクしたコードは、ソースコードまたはオブジェクトコードの提供が必要」になります。

もう少し詳しく書くと、ライブラリに静的リンクまたは動的リンクする場合には、

  • 頒布物で、ライブラリの著作権表示とライセンスを明記する
  • 頒布物のライセンスでは、改変やデバックのためのリバースエンジニアリングを許可する
  • ライブラリおよびライブラリの改変物は、**元と同じライセンス**で提供可能にする
  • ライブラリを利用するソースコードまたはオブジェクトコードは、**再結合または再リンクするのに適した形式・条件**で提供可能にする

といった対応が必要になります。

これは、LGPL2.1の第6条、LGPL3.0の第4条に該当します。

LGPLは、このほかにもライブラリとしての利用ケースに応じて、何をどのようにするのか細かく定義しています。とはいえ、中心にある考え方は、ライブラリ自体のソースコードを自由にしておく、という点にあります。

詳細は、あらためて解説したいと思いますし、拙著「知る、読む、使う、オープンソースライセンス」もアップデートする必要があります。

なお、ご指摘いただいた大内様には、この場を借りて御礼申し上げます。


ライセンスとは何か、整理してみた

Memorandum of Understanding between Highways Agency and Environment Agency

先日の勉強会でも取り上げた「ライセンスとは何なのか」という話題について整理してみます。オープンソース界隈では、オープンソースライセンスは、契約なのか、そうでないのかという話が、昔からありまして。「契約として厳密に考えないとビジネスでは使えないだろう」という意見もあれば、「そんな細かいことは良いんだヨ。イノベーションだ、新しいことに挑戦することが重要だ」という考える人もいます。

私としては、開発者やコミュニティを尊重して、オープンソースライセンスを遵守するなら、実務上は問題にならないと考えています。ただ、「コミュニティって何それ。うまいの?」という人もいるので、そういう立場の人たちとコミュニケーションを成立させるためにも、「そもそもライセンスとは法律的に何なかの」を整理してみました。

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エンジニアのための契約勉強会 – オープンソースライセンス編まとめ

co-edo_20150624

2015年6月24日、東京・コワーキングスペース茅場町 Co-Edoで、「エンジニアのための法律勉強会 #5『OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』 – Co-Edo Developers」が開催されました。この勉強会は、IT系の契約や法律・判例についての勉強会で、弁護士の野島梨恵さん(東京山王法律事務所)に解説いただいています。これまでに「SQLインジェクション対策もれの責任を開発会社に問う判決」などを取り上げてきました。

野島さんは、ふだん弁護士として企業法務系とか係争とかを扱っているそうです。必ずしも情報技術に詳しいわけではありませんが、毎回、法律家ならこう考えるという話は、大変勉強になります。

これまでの勉強会の内容は、小山さんのこの記事にまとまっています。

さて、5回目となる今回のテーマは、オープンソースライセンス。私も講師のひとりとして、いつものオープンソースライセンスと著作権あたりの概略を説明して、そこに野島さんが法律的な解説を加えるという形式になりました。

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登壇します!エンジニアのための法律勉強会 #5『OSSのライセンスと、コンテンツやソースコードの著作権』

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6月24日(水)に、下記の勉強会に登壇することになりました。
今回は、弁護士の野島 梨恵氏(東京山王法律事務所)といっしょです。

今回は、せっかく法律家の方も参加してくれるので、法律家から見たライセンスとは何ぞというところを聞いてみたいと思います。

皆さんのお申し込みをお待ちしております。


もっとオープンソースしたいと社長に言われたら~ OSS利用の成熟プロセス試案

Estación del Norte

IT企業なのに、
「オープンソースにしたら、売り上げは上がるのか」
「オープンソースにしたら、優れたエンジニアを採用できるのか」
「オレの若いころは・・・」
みたいなことを、まわりの上司や社長に聞かれたことはありませんか。

そんなことを聞く人ほど、オープンソースについて誤解していたり、いまだ偏見をもっていたり、自分ではまったくオープンソースソフトウェア(OSS)を使っていなかったり、使っていたとしてもOSSだと気づいていなかったり。中小・中堅のシステム開発会社みたいなところを想定しているんですが、IT技術を売りにする企業として、オープンソースに対する理解が、今どきそれはまずいだろうという感じです。そんな上司や社長は、まだまだ少なくありません。

そこで、本稿では、そんな上司や社長がいるIT企業に勤めている人のために、OSSの利用や、オープンソースプロジェクトへの参画について、どんなふうにすればいいのか整理してみました。

IT技術にたずさわる人たちが、上司や社長とオープンソースのビジネス利用について話をするとき、いくばくかの参考になれば良いのですが。
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図解:Apache License2.0の特許条項

BikeShare Bike Patent

西尾泰和さんが「でかい企業のOSSがApache License 2.0だと嬉しい理由」として、Apache License2.0の特許条項を解説しています。

Apache License, Version 2.0の特許条項は、こんなふうになっています。

3. 特許ライセンスの付与
本ライセンスの条項に従って、各コントリビューターはあなたに対し、成果物を作成したり、使用したり、販売したり、販売用に提供したり、インポートしたり、その他の方法で移転したりする、無期限で世界規模で非独占的で使用料無料で取り消し不能な(この項で明記したものは除く)特許ライセンスを付与します。ただし、このようなライセンスは、コントリビューターによってライセンス可能な特許申請のうち、当該コントリビューターのコントリビューションを単独または該当する成果物と組み合わせて用いることで必然的に侵害されるものにのみ適用されます。あなたが誰かに対し、交差請求や反訴を含めて、成果物あるいは成果物に組み込まれたコントリビューションが直接または間接的な特許侵害に当たるとして特許訴訟を起こした場合、本ライセンスに基づいてあなたに付与された特許ライセンスは、そうした訴訟が正式に起こされた時点で終了するものとします。

licenses/Apache_License_2.0 日本語参考訳 Open Source Group Japan

図解にしてみると、こんなふうかな。

APL-Patents2

「あなた」は、特許ライセンスを受けるんだけど、それをもとに誰かに特許侵害訴訟を起こすことはできません。訴訟を正式に起こした段階で、元の特許ライセンスが停止されます。前提として、貢献者(各コントリビュータ)は、プロジェクトにコードを提供するとき、自分が持つ特許をライセンスしていなければならないけれど、これは貢献者がApache License 2.0でコードを提供していればいい。

さて、でかい企業がOSSをApache License2.0で提供している場合、そのデカい企業は、「あなた」であるか貢献者(各コントリビュータ)であるということなので、そのデカい企業から、”使っていたら後から「特許料払え!」と言われるという悲劇が起こらない”(by 西尾泰和)、と。

とはいえ、そのデカい企業からの特許訴訟リスクがなくなったとしても、特許訴訟リスク自体が完全になくなるわけではありません。たとえば、成果物に、どこかの誰かの特許侵害が含まれている可能性は残っています(Twitter / kazuho)が、これについては、パテントプールといった防御策があります(ソフトウェア特許とフリーソフトウェア – WikipediaOpen Invention Network)。

ライセンス文だと、「あなた」と「誰か」というのが、ちょっとピンとこない感じがするけれど、絵にすると自分でもちょっと分かりやすくなったような。

PS.図解を修正:Teminateの矢印の行き先を変更しました。


レビュー:OSSライセンスとは-著作権法を権原とした解釈

公益社団法人著作権情報センター(CRIC)が、”次世代を担う著作権法制の研究者・実務者の研究を奨励し、著作権法制の適切な発展を期することを目的として”募集している著作権・著作隣接権論文。その第9回で「OSSライセンスとは-著作権法を権原とした解釈」という論文が入賞しました。

この論文を書いた姉崎 章博さんは、NEC ソフトウェア技術統括本部 OSS推進センターでオープンソースライセンスなどのコンサルティングを手がけるかたわら、OSSライセンスの解説セミナーを多数行うなど、OSSライセンスの理解と普及のために活躍してきています。

その姉崎さんから「第9回著作権・著作隣接権論文集」(CRIC、非売品)を献本いただきました。姉崎さん、ありがとうございました。

さっそく読んでみました。

IT関係者は、オープンソースに接する機会も増えてきましたが、著作権にたずさわる法曹関係者はまだまだなじむ機会が少ないのか、まずOSSとその代表的なライセンスについて丁寧に説明していきます。

そのあとで、経済産業省が2002年度から公開してきた「オープンソースソフトウェアの法的諸問題に関する調査」報告書について再検討しています。そのひとつとして、報告書では、GPLがライセンス契約の形式にのっとっていないにも関わらず、ライセンス契約書としての問題点を取り上げていることに疑問を呈して、「OSSの各ライセンスの条文の書きぶりから見れば、著作権者の意思表示の単独行為と解することを基本に考えると違和感なく解釈できる」としています。

そのために、この論文では「ライセンス」というものを再確認して、ライセンスの形態は契約とは限らない、と説明している。

読んでみると、あらためて腑に落ちるところがたくさんあります。

オープンソースライセンスの捉え方については、この10年で大きな進歩があったと思いますが、一方で、ベストプラクティスと考えていることに、さらなるベストが見つかることがあるわけで。これは、なかなか労作だと思いました。

なかなか読んでみる機会は、すくないかも知れませんが、もっとアクセスしやすい形で公開されれば良いのにと思いました。

PS.@ITに、解説記事が掲載されました。
OSSライセンスで条件を指定する権利はどこからくるのか?(1):「OSSライセンス=契約」という誤解を解く – @IT

PS2. こんなのも書いてみた。
ライセンスとは何か、整理してみた